大判例

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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和31年(う)39号 判決

記録に依れば本件公訴事実は「被告人は昭和三十年七月九日施行せられた鯖江市議会議員選挙に際し選挙人なる処、第一、同月七日頃鯖江市水落町八十七号十七番地佐々木皓一方で、同選挙につき立候補した岩佐常吉の選挙運動者である同人から、同候補者の為当選を得しむる目的で投票並に投票取纒方の選挙運動を依頼せられ、其の報酬並に投票買収資金として供与せられることの情を知り乍ら金二千六百円の供与を受け、第二、同候補者に当選を得しむる目的で、(一)同日頃同市岡野町七号七番地選挙人小沢藤太郎方で、同人に対し同候補者の為投票並に投票取纒方の選挙運動を依頼し、其の報酬及び投票買収資金として金千四百円を供与し、(二)同日頃同市鳥羽町二十三号二十三番地選挙人峯田正一方で、同人に対し同候補者の為同人及び同人の母、妻の投票方依頼し、其の報酬として金六百円を供与し、(三)同日頃同市岡野町十号二十八番地選挙人牧野衛方で、同人に対し前同様依頼し同趣旨の金二百円を供与し、(四)同日頃同市同町十九号二十八番地選挙人上山藤良方で、同人に対し前同様依頼し、同趣旨の金二百円を供与し、(五)同日頃同市杉本町路上で選挙人木村竹蔵に対し、前同様依頼し同趣旨の金二百円を供与し、第三、同年六月三十日頃同市水落町八十四号十一番地水島等方で、前記佐々木皓一から同候補者の為投票並に投票取纒方の選挙運動を依頼せられ、其の報酬として供与せられることの情を知り乍ら一人前金百二十円位に相当する酒食の饗応を受けたものである。」と言うにあるところ、これに対し原判決は、挙示の証拠を綜合し、「被告人は昭和三十年七月九日施行(告示同年六月二十四日)の鯖江市議会議員選挙に際し選挙人なる処、議員候補者岩佐常吉(立候補届出同年六月二十五日)の当選を得しめる目的を以て第一、昭和三十年六月三十日頃鯖江市水落町水島等方に於て、佐々木皓一より同候補者の為投票並に投票取纒方の選挙運動の報酬たるの情を諒知し乍ら、金百二十円に相当する酒食の饗応を受け、第二、犯意継続して別紙一覧表の通り同年同月同日頃五回に亘り同市岡野町七号七番地外四個所に於て各選挙人小沢藤太郎外四名に対し、前記候補者の為投票の報酬又は投票買収資金として合計金二千六百円を供与したるものである。」(別紙一覧表(一)供与年月日、昭和三十年七月七日頃、場所、鯖江市岡野町七号七番地、受供与者、小沢藤太郎、供与金額、千四百円、受供与趣旨、投票報酬及投票買収資金、(二)供与年月日同上、場所、同市鳥羽町二十三号二十二番地、受供与者、峯田正一、供与金額六百円、受供与趣旨、同上、(三)供与年月日同上、場所、同市岡野町十号二十八番地、受供与者、牧野衛、供与金額二百円、受供与趣旨、同上、(四)供与年月日同上、場所、同市同町十九号二十八番地、受供与者、上山藤良、供与金額二百円、受供与趣旨、同上、(五)供与年月日、同上、場所、同市杉本町路上、受供与者、木村竹蔵、供与金額二百円、受供与趣旨、同上)旨の事実を認定し、判示第一の事実は公職選挙法第二百二十一条第一項第四号第一号に、判示第二の事実は包括一罪として同法同条第一項第一号に該当するとし、所定刑中各罰金刑を選択して罰金等臨時措置法第二条を適用し、右は刑法第四十五条前段の併合罪であるとし、同法第四十八条第二項を適用し各罪の罰金の合算額以下に於て、被告人を罰金壱万円に処し、(中略)公職選挙法第二百五十二条第三項を適用し、被告人に対し同条第一項の不適用を宣告し、なお判決理由末尾に、公訴第一の事実につき、被告人の当該所為は公職選挙法第二百二十一条に所謂受交付であつて、公訴に言う所のように受供与でなく、右受交付行為は判示第二の供与罪中に吸収され、別罪を構成しない旨判示していることを認め得る。検察官は「被告人は佐々木皓一から、その処分を委ねられて、金員を受領したものであり、従つて、被告人の右受領行為(公訴第一の所為)は、金員の供与を受けたものであつて、金員の交付を受けたものでないから、原審認定の如く該所為を原判示第二事実に吸収せしむべきでない。」旨主張し、また佐々木皓一に対する検察官作成供述調書謄本及び被告人に対する検察官作成供述調書中には、それぞれ「佐々木皓一が被告人に対し金二千六百円を手交するに際し、選挙人一人当り金二百円の割合で、供与せられ度く、これを現金のまま供与するか又はそれに相当する物品を購入した上、該物品を供与すべきかの点については、これを被告人の裁量に委ねる旨申添えた。」趣旨の記載の存することを認め得ない訳でないけれども、しかしながら前記供述部分は、未だこれをもつて佐々木が被告人に対し、金員処分の自由裁量権を授与したものと認定するに足るものでなく、寧ろ前記供述部分は、一定金額又はそれに相当する価額の物件を、一定数の選挙人に供与すべきことを被告人に依頼したものであつて、被告人に報酬を与え、又は自由な処分を許容する趣旨を毫も包含するものでないと解し得るのみならず、却つて原判決挙示の証拠、殊に小沢藤太郎、峯田正一、牧野衛、上山藤良、木村竹蔵等に対する検察官作成各供述調書謄本の記載及び前掲被告人の捜査官憲に対する各供述等に徴すれば、被告人は佐々木晧一と協議の上、佐々木から受領した金員の悉くを、右協議の趣旨に則り、小沢藤太郎以下四名に対し現金を以て供与し、自己の手裡に毫末もこれを留保しなかつたことを認め得べく、これ等諸般の状況に徴すれば、被告人の公訴第一の所為は、公職選挙法第二百二十一条に所謂「交付を受け」たものであつて、原判示第二の供与行為に到達すべき一過程に過ぎず、従つて右行為は第二の供与罪に吸収され、別罪を構成しないと認めるのを相当とするから、この点に関する論旨はその理由がない。次に検察官は「原審は判示第二の事実を犯意継続に係るものとし、前後五回に亘る被告人の所為を包括一個の行為と認定しているけれども、連続犯に関する刑法第五十五条の規定が削除された現行刑法の下に於ては、同一罪名に触れる数個の行為が、犯意を継続して為されたと言う丈けで、これを一罪として処断すべきでない。」旨主張するので、その当否を案ずるに、刑法第五十五条が既に廃止された今日、旧法時代の「犯意継続」なる概念を、そのまま踏襲するが如きは、改正法の精神を没却するものとして、厳にこれをいましむべきであり、従つて、仮令旧法時代の「犯意継続」なる概念に該当する場合であつても、新法上常に必ずしもこれを一罪として取扱うべきでなく、意思内容、行為の時及び場所、被害法益その他諸般の状況を綜合考覈した上、はじめてその如何を決すべきものと考えられるところ、今これを本件について見るに、原審証拠調の結果を精査するも、被告人の判示第二の数個の行為は、同一罪名に触れ、且、犯罪の日を同じくする点に於て、各行為間に若干の親近性あることを感ぜしめるに止まり、他に犯罪数の単一であることを肯定せしめるに足るような、特別事情の存在を認め得ないのみならず、これを記録に徴すれば、叙上数個の行為は、行為の場所、行為の相手方、供与された金員の額等を、いずれも異にするものであることについて審理上争がなく、従つて前記のような観点よりすれば、これを一罪として処断するよりは、寧ろこれを併合罪として認定するのを相当とすると考えられる。そうして見れば原判示第二に於て、被告人の所為を一罪と認定した原判決は、事実の認定を誤つたものであり、右の誤認は判決に影響するから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

(裁判長判事 成智寿朗 判事 沢田哲夫 判事 木村直行)

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